徒然 矛盾発見!『なぜ生きる』

音楽鑑賞記録や読書メモ・感想文、パソコン関係などを徒然なるままに綴ってゆきます。

矛盾発見!『なぜ生きる』

 あ、表題の意味ですが、

『なぜ生きる』という本の中に、矛盾した人間の姿を発見!

ということです。本そのものは「人生の目的があるから、生きている間に達成しなさい」ということで論旨一貫していると思います。

 さて、人間の存在ほど矛盾したものはない、とある哲学者は言います。その最たるものが「絶対死にたくないのに、絶対死なねばならない」というものでしょう。

 また、いつかは死ぬと頭では分かっていても、腹底ではいつまでも生きておれると思っているのが私達です。その証拠に、明日とも知らぬ無常の命なのに、その先のことを考えてはいないでしょうか。「明日も生きておれる」というのが大前提になっています。その心は明日になっても、1年後になっても、10年経っても変わらないでしょう。その、「まさか明日は死なない」という心は死ぬまで変わらないと思います。

 その他、来るやら来ないやら分からない未来には万全の対策を立てていても、やがて必ずやってくる事には無頓着なのも矛盾した人間の姿です。
◎「老後のことは老後になってみにゃわからん。つまらんこと」とは、誰も言わない

「死んだ後なんかないよ」と言いつづけている人でも、知人や友人が死ぬと、「ご霊前で」とか、「ご冥福をいのります」と言う。「霊前」は故人の霊の前であり、「冥福」は冥土の幸福のことだから、いずれも死後を想定してのことである。果ては「安らかにお眠りください」「迷わずに成仏してください」などと、涙ながらに語りかけられる。遭難のときなどは、空や船から花束や飲食物が投げられるのも、しばしばである。単なる儀礼とは、とても思えない。その表情は深刻で、しぐさも神妙なのだ。
 毎年8月に戦没者の慰霊祭が執行される。通常なら、幸福な相手を慰めるということは、ありえない。その必要がないからである。死者の霊が存在し、慰めを必要としている、という心情がなければ、これらの行事は成り立たないはずだ。死後を否定しながら冥土の幸福をいのる。何か否定しきれないものがあるのだろう。
「社交辞令だよ」と笑ってすませられるのは、肉親などの死別にあわない、幸せなときだけにちがいない。
「死んでからのことは、死んでみにゃわからん。つまらんこと問題にするな」
と言いながら、有るやら無いやらわからない、火災や老後のことは心配する。火事にあわない人がほとんどだし、若死にすれば老後はないのに、火災保険に入ったり、老後の蓄えには余念がない。
「老後のことは老後になってみにゃわからん。つまらんこと」
とは、誰も言わないようだ。火災や老後のことは真剣なのに、確実な未来を問題にもしない自己矛盾には、まだ気がつかないでいる。
「考えたって、どうなるもんじゃないよ」「その時はその時さ」「そんなこと考えていたら、生きていけないよ」。頑固に目を背けさせる死には、無条件降伏か玉砕か、大なるアキラメしかないのであろうか。
 元気なときは、「死は休息だ」「永眠だ」「恐ろしくない」と気楽に考えているが、“いざ鎌倉”となると、先はどうなっているかだけが大問題となる。死後は有るのか、無いのか、どうなっているのやら、さっぱりわかっていない、お先真っ暗な状態なのだ。この「死んだらどうなるか分からない心」を、
「無明の闇」といい、また、
「後生暗い心」ともいわれる。
「後生」とは死後のこと。「暗い」とはわからないこと。死後ハッキリしない心を「後生暗い心」とか「無明の闇」といわれるのである。
『なぜ生きる』138〜140ページより)
 そしてまた、最もよく知っていても良いはずなのに、サッパリわからないのが自分、という矛盾も指摘されています。
(12)知っているはずの サッパリわからないもの

◎もっとも大事な忘れ物――思いあたる、かずかず

(中略)
「本当の私」とは何か。自分自身のことだから、これほど大事なことはなかろう。
「世界で最大のことは、自己を知ることである」とモンテーニュは言っている。全思想の固定した、動かし得ない中心テーマは、明らかに“自分とはなんぞや”であったと、E・カッシーラー(ドイツの哲学者)も断言する(『人間』)。
 自分自身のことは自分が一番知っている、と思いがちだが、「汝自身を知れ」と古代ギリシアからいわれてきたように、もっともわからないのが自分自身ではなかろうか。はるか宇宙の様子がわかっても、素粒子の世界が解明されても、30億の遺伝子が解読されても、依然としてわからなのが自分自身なのだ。
 心なき者のしわざか、背中に矢の刺さった痛々しいカモの映像が、視聴者のあわれを誘ったことがある。料理店で、その矢ガモのテレビを見ながら、「なんとむごいことを……」と顔をしかめて、カモ鍋を食べている人を見て、「自分のことはわからんものだなぁ」と反省させられたものである。こんな自己矛盾は、いくらでもあろう。
「昔のニワトリは、夜明けに必ず鳴いて、時を知らせたもんだが」
「今は、ニワトリまでがナマクラになりよって、こまったもんだ」
 耳の遠くなったことに気づかぬ、田舎の老夫婦の会話を聞いて苦笑したことがある。
 まさに「知るとのみ 思いながらに 何よりも 知られぬものは おのれなりけり」ではなかろうか。
 古今東西、わが身知らずを笑った話は多いが、それほどわからないのが自分自身ということでもあろう。二、三あげてみよう。
 昔、印度の裕福な家の息子が、美しい妻を迎えた。新婚夫婦は飲酒にふけり、一層の快楽に身をまかせた。ある夜、新妻が酒をくもうとカメのふたを開けると、艶かしい女がいる。テッキリ自分に秘めた女だと思い、夫をののしり泣き叫ぶ。夫が驚いてカメをのぞくと、情欲に燃えた若い男の顔が見える。妻にあやしい男がいると思った夫は、激しく妻の不貞をとがめた。荒れた夫婦のケンカでカメは打ち砕かれ、争いは絶えたという。悦楽の深酒に酩酊している二人には、酒に映っている自分の姿もわからなかったのである。
 古代中国の蔡君謨(さいくんぼ)という宰相は、長い見事なアゴ髭で有名だった。天子から、そのヒゲを布団の中に入れて寝るのか、外に出して休むのか、と聞かれて、一向にハッキリした自覚がない。いい加減なことも言えないので、一晩の猶予を願って、さっそく帰宅して試してみるが、夜具に入れると息苦しいし、外に出しても都合が悪い。何しろ豊かで長いアゴ髭、出したり入れたり、夜明けに及んだが、結論は出なかったという。
 窃盗団が山中で宴会を開いた。もちろん、盗品でないものは何ひとつない。中に輝く金盃があった。回し飲みをしているうちに金盃がなくなったので、親分株が立ち上がり、目をつり上げて怒鳴った。
「さては、この中に盗人がいるな」
 己が窃盗団のボスであるのを忘れなければ、言えないことにちがいない。
 いずれも身につまされる話だが、キルケゴールは自分自身を忘れるという、もっとも危険なことが世間では、いとも簡単になされていると警告する(『死に至る病』)。キャッシュコーナーに、現金を置き忘れたとなれば大騒ぎするが、もっとも大事な自分を忘れていても、ちっとも驚かない。

◎その女を求めるのと、汝自身を求めるのと、いずれが大事

 釈尊が、一樹の陰に休んでおられたとき、近くの林で30人あまりの貴公子が、夫人同伴で酒宴を楽しんでいた。ところが、独身男が連れてきた娼婦のような女が、みんなが疲れて眠っている間に貴重品を盗んで逃げたのである。驚いた一行が懸命に探しまわっていると、釈尊の姿を見た。あやしい女が通りかからなかったか尋ねると、こう反問されて、はっと我に返ったという。
「事情はよくわかったが、その女を求めるのと、汝自身を求めるのと、いずれが大事であろうか」
 一同、迷夢からさめた心地して、説法を聞き、弟子になった、と仏典に記されている。
 エジプトの沙漠に千古の沈黙をまもるスフィンクスは、
「始めは4本足で歩き、中ごろは2足となり、終わりに3足となる動物は何か」
と旅人に問いかけ、答えられない者を食い殺したという。
 つまり、人間に向かって、「人間とはなんぞや」と問うのである。
 政治も経済も科学も、医学、文学、哲学、宗教も、この問いに答えんとしている、といえよう。
 一人一人がこの問いに、答えなければならない。
 彼の前には、代弁もゆるされなければ、受け売りの知識も間にあわないのだ。
『なぜ生きる』203〜208ページより)


 知れば知るほど分からなくなってくるもの。自分自身の存在こそが最も矛盾したものではないかと思わされます。


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